MFT機で悩む


 小さなシステムなのに意外と画質が良い、という意外性が身上のマイクロフォーサーズを趣味カメラとして頻繁に使っている。絶対的な画質や徹底した利便性を追求するのはあまり趣味らしく感じないからだ。特に旅先でのスナップで小型軽量なMFT機の出番が多い。

 私にとってカメラの分類はセンサーサイズでするのが一番手っ取り早い。いわゆるフルサイズ機は画質が良いがレンズが大きくなるから時に過剰な感じがする。APS-Cは良いレンズでシステムを組もうとしてもフジ以外では揃わない。
 MFTはその流れで行くとシステムが小さい、軽いかわりに画質が最低クラスだということになってしまうのだが、センサーサイズなりで予想されるよりも遥かに画質が良いのが面白いところなのだ。これはメーカーが特殊なニーズに真摯に応え続けた結果だろう。

 しかし同じセンサーサイズのカメラが複数台になると、どういう時にどのカメラを持ち出すかで悩みが始まる。MFTは画質を求めた結果、意外に高額なレンズも数多くあるだけに悩みが増す。これは他人にとってはどうでも良いことだが当人にとっては切実な問題なのである。

 他者に写真を見せる場として、一番解像度が高いといってもYouTubeのFHD程度の解像度しかないわけで、同じ撮影地に同じタイミングで行ったり別のカメラで撮った写真を横に並べるのでもなければ、画質の優劣を論じるのは難しい。

 しかし写真を撮る人間としては、これから行く撮影地でどれだけの画質を残せば良いのかを先に決定しなければならない。「どういう被写体を」「どの機材で」の掛け算を、未来予測して決めなければならない。だから悩むのだ。適材適所という言葉を機材選定でよく耳にするが、被写体や背景、撮る光がガチガチに決まっていることのほうが珍しいのだから、特に旅先スナップを想定すると、条件が不定の状態で機材を決めなければならないのだから適材もへったくれもないのである。

 だからこそ、Z7にNIKKOR Z 50mm F/1.8Sだけで撮る、このセット以外で撮れないものはなかったことにする、というような勇気ある割り切りに心惹かれるのである。

EM1Mk3とLUMIX G99

 マイクロフォーサーズ機はGX7Mk2をYouTube視聴者の方に譲って頂いてからGX7Mk3、G99とパナソニック製のものを使い、その後ずいぶんためらった後、オリンパスに手を出した。E-P7とEM1Mk3の2台を手に入れ、現在も使っている。

 2023年時点でMFT最高画質といえばLUMIX GH6とOM-1だが、GH系やOM-1は遊びで使うMFT機としては大きすぎて意味がないので、個人的なサイズ限界内で最も画質が高いEM1Mk3とG99が手元にある。

 最近は他にこれといってテストしなければならない機材もないので、毎日どちらかを持ち出しては決定的な特徴を掴もうとあれこれ試行している。
 被写体としては旅先でも日常でも、主に静止物を撮るスナップである。動き物は猫を撮る程度。
 遠景を撮ることがあるという意味では風景写真的な使い方をすることもあるが、撮り方としては飽くまで手持ちの気軽なスナップだし、人物はポートレートという意味ではまず撮らない。スナップの一環で人が映り込むことがある程度だから瞳AFなどAI的な機能も使わない。

EM1Mk3

 EM1Mk3(OM-D E-M1 Mark III)はG99と比べると正確さを追求するのにより向いたカメラである。解像度は両者とも2000万画素程度と大差ないのだが、等倍で見た時、より解像しているように見えるのはEM1Mk3だし、色の再現性も高い。トーンも癖がなく扱いやすい。

 EM1Mk3を別の言葉で表現するなら「フルサイズみたい」を一番体現しているカメラであり、メインで使うのに申し分ない描写性能を備えている。人物を撮ってもお肌の再現をきちんとしてくれるので、長辺1000px、A4プリント程度であれば仕事で使えるクオリティである。
 MFTなのに大したものだ、と感嘆するのがEM1Mk3およびOMのレンズ群だ。

 またOMレンズ群はボケが硬くなってでもきちんとした描写、という方向で作られているらしく、図鑑的な撮り方に最適である。丁寧に解像するがジャリジャリに強調することはないのも特徴だ。
 あれこれ試した中で20mm F1.4 PROだけは例外的に前後のボケを乱してでも立体感を出そうとしている意欲作のようで、このレンズで撮った写真を上手く織り交ぜるとまさに「フルサイズのような」組写真が出来上がる。

LUMIX G99

 G99(LUMIX DC-G99)は他のLUMIX MFT機と同様、印象のカメラといった趣きで、機能としては飛び抜けたところがない中庸のカメラだが私にとっては十分だ。

 センサーの解像力ではEM1Mk3に多少劣るし、色再現も偏っていて平均点ではEM1Mk3に勝てない。トーンも黒が締まりきらない、良くも悪くもシネマ的な画質になるのがRAWの時点で決まってしまっている。
 しかしパナライカレンズと組み合わせて撮るとたまに当たりを引くし、印象に残る写真はトータルでG99のほうが多い気がする。

 静止物にピントを合わせるのであればEM1Mk3よりも短時間で淀みなく動作する。EM1Mk3は像面位相差を採用している筈なのにAFSではなぜかコントラスト式のように前後してピントを合わせるが、G99はコントラストAFなのに、ほとんどの場合前後動作なしにいきなりピントが合う。結果G99のほうが撮影に集中できる。

 EM1Mk3はAFCで使うことを前提に作られているカメラのようで、G99よりも動きものに強いが静止物が対象の場合はAFに落ち着きがない。E-P7もコントラストAFだがAF動作開始時にピント位置が前後するのは同じだ。そのあたりでもOMとLUMIXのキャラクター付けの違いが出ていて面白い。

 G99はパナライカと呼ばれるライカ銘パナソニック製造のレンズ群と組み合わせて使うと本領を発揮する。純粋な解像力ではOMレンズ群のほうが等倍で見た際に上だし、ボケのきれいさでもOMレンズのほうが秀でているが、写真を鑑賞サイズに縮めて見た時のパンチ力はG99のほうが上である。

 つまり色味やトーンは必ずしも正確ではないが、とにかく印象的になるように作られているのがG99(およびLUMIX MFT機)である。これはMFTだから面白い、と表現するとぴったり来るように思う。超望遠域をメインで使うのでもない限り、フルサイズみたいな、を高額なレンズに予算を注ぎ込んで達成するくらいなら、本当にフルサイズ機を買った方が安い。

 必ずしも合理的でないが気持ちが良い、というのが持ち味であるところにヨーロッパの血を感じる。

気分の問題

 EM1Mk3およびOMが「MFTなのに」よく撮れるシステム、G99およびLUMIXが「MFTだから」面白いシステム、というそれぞれの印象は、結果としての画質だけでなく、AF動作の違いを始めとするフィジカルな面も大きく影響している。
 たとえばカメラのボデーを持った感触、ダイヤルの硬さ、シャッターボタンを押し込んだ時の感触や反応、シャッターを切ってから再生ボタンを押して再生するまでのタイムラグなどなど、カメラを操作している時に感じることは多々ある。

 そのあたりも含めてみると、EM1Mk3は撮影時にきっちり仕事をしなければならないような気持ちになるが、G99は遊びで撮っている感覚が強く、スナップしていてもEM1Mk3は記録のため、という感覚を持つし、G99は面白い写真を撮ってやろう、という気持ちになってくる。このマインドの違いは大きい。

 さて最終的にどちらで撮った写真が手元に残るべきか? と考えた時、「メインで使うなら」「旅レポ的に正確性を求めるなら」「整然とした写りを求めるなら」EM1Mk3になるだろうし、「サブ機として遊び用に持っていくなら」「1日1カットで良いから印象的な写真を残したいなら」G99、ということになりそうだ。カメラマン仕事のノリならEM1Mk3だし、写真家ごっこがしたいならG99、と言い換えても差し支えないだろう。

 どちらもある程度スイッチ可能だし、撮った写真をRAW現像でどちらかに寄せるのも可能だが、マインドは撮影時点のものなので後から変換不能である。

 そこまで含めて事前にカメラを選ばなければならないのが難しいところだし、また楽しいところでもある。その選択をするためのデータ集めとしての徘徊スナップをしている、と世間の皆さんにご理解いただけると、カメラを持った怪しいおじさんに対して向ける厳しい目も少しは優しくなるのかもしれない。

 ぜひともご容赦願いたいものである。


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