価値観の違いが面白い

 先日、自分が作品として取り組んでいるシリーズのモデルさんを探そうとネット上をウロウロしていたときのことです。

 端的に表すと、見目麗しく「撮ってみたい!」と思った方に声をおかけしたのですが、互いの条件が折り合わず、またの機会にということに。

 こういうのは上手く行くときもあれば上手く行かないときもありますよね。

 上手く行く時というのは、当方の要求と先方の要求が撮影そのものなり、撮影で作られる写真なり、撮影する、した、使われた、という事実なりのどこかしらで満たされるからであります。

要求が満たされるポイント

 一番分かりやすいのはお金ですよね。お金がないと生きていけませんから、それが第一に来るのは当然のことであります。

 またお金は非常に抽象的に物事を媒介してくれるので、違う世界の価値観を一つにつなげてくれちゃう役割も果たしてくれて非常に便利です。

 たとえば私が写真と全然関係ない世界の方に被写体をやってもらいたいなあ、もしくはその方の所有物を被写体として撮らせてもらいたいなあ、と思った時に、一番かんたんなのはお金で解決することですよね。

 いくらいくら払うから写真撮らせてちょー、OK、というような。とくに静物の場合はこれが一番簡単。

 お金以外の場合も結局は何かしらの対価があり、それが撮る方撮られる方でバランスするから、よっしゃ撮影しましょう、になります。

 写真を撮っていると、プロ的な活動の場であってもアマ的な活動の場であっても、その利害のバランスが一致しないとなかなか珍しいものは撮れませんから、そのあたりに敏感になってきます。

被写体ではあるのだけど

 最近おもしろいなと思ったのは、被写体活動をされている方で、ご本人はモデルとも名乗っていないのだけどスチル(静止画)の被写体をちょいちょいされている方。

 その方は特殊ジャンルが専門なので、その世界では自分の容姿を売り物しているのだけど、純粋にスチルのモデルさんかというとどうもそう名乗っているわけではない、という存在でありまして、その方と交渉してみたところ、私の考え方が写真の世界の常識に囚われているなあ、と気付かされました。

 彼女は自分の写った写真を販売していたりするのですが、その質にはまったくこだわりがないようで、上手いこと撮られると得をするとか、そう撮られたいとかいう欲がないようなんですね。
 またモデルさんの場合は「撮られたい」という欲がある人が少なくないのですが、彼女の場合は写真をどう使われるかに最大の関心があり、撮影自体には興味がないらしいというのも、ふだん写真の世界にどっぷり首までつかっている私からすると「おっそうか」と少々驚かされました。

 つまり撮られたいわけではないのだけど自分を被写体とした写真を扱っていたりする。だから質の判断はしない、というような。これ私の勝手な解釈なのでアレですけどね。あと正しい正しくないもありません。そういう考え方ももちろん尊重します。

 これってちょいちょいあることで、相手によっては「まともなスキルでちゃんと撮ってもらえる!」と前のめりで来られる、なんならお金払いますよ! というふうに撮影技術を全力で評価してくださる方もいれば、そうでもない「写真がちゃんと撮れるから、何?」という方もいるんですね。

 件の女性については、同じ「写真を撮る」を主題に交渉しており、もちろんそこには「撮影」が発生するのですが、撮影技術についてはまったく忖度がないというのが私からすると新鮮でありまして、こういうギャップは、普通に暮らしている人が「えっ写真はスマホで十分じゃない?」というのを聞くたびに感じるものと同種。

 ただ今回はより専門領域に近いところで感じたギャップなので、そうか写真の用途が違うと必要とされる技術も違うから、写真技術に興味を持たれる度合いが全然違うんだなあ、という風に感心した次第です。

位相のずれ

 こういったずれは、技術に対する評価のずれなのでしょうか、それとも価値観のずれなんでしょうか、なにはともあれずれがあるからこそ社会って重層的で面白いですし、一律に「技術を評価しろッ!」と怒ったところで、今回の件についていえば、彼女は特定ジャンルで評価されている方ですから、特定ジャンルで評価される技術がそこにある筈なんですよね。写真の撮り方の善し悪しが影響しないから撮影技術に興味がないだけで。

 ですから、自分が専門としているジャンルにきちっと足場を決めて、そこと価値観が合う人を探しつつ、ギャップをどうしても乗り越えたい時はお金でドーン、が一番早いなという風に思いました。

 ただ難しいのは、撮る撮られるの関係でいった場合、容姿が優れているからといってモデルとして優秀かというとそれもまたちょっと別の問題で、容姿が優れていればスタート地点は高いところに設定できる、士官学校を出ていますみたいな感じですが、その先に良い写真になるかどうかは撮られるスキルも大きく関わってきます。

 写真を撮られるスキルについては、プロのモデルさんに伺いながら言語化していくのが良いかな。そういえばVimeoで販売している有料動画で、そのあたりについてまだ扱っていないので、モデルさんが撮られる時に何をどう考えて良い写真にしようとしているのか、教材を作ってみたいと思っています。

 それではまた!

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