趣味のフィールドレコーディング


 仕事も趣味も写真で特に不都合はないのだが、もっと趣味らしい趣味もあったほうが良いのではないかと考えて録音に手を出した。

 録音趣味はフィールドレコーディングという横文字の名前も付いており、恐らく元々は巨大なオープンリールのデッキしかなく、録音といえばスタジオすなわち屋内でやるもの、という前提があったところへ、技術が進み小型テープレコーダーが発明され、外に飛び出して様々な音を録音出来るようになったところではないか、と勝手に推察していたらWikipediaにも冒頭に同じことが書いてあった。

 録音そのものはミュージシャンをやっていた時分に宅録をしていたので「分からないこともない」程度にマイクやレコーダー周りの知識があり、また後述の動画も一緒に録る際に使うカメラはスチル撮影で使っているミラーレス一眼がそのまま流用出来て便利な反面、本業のスチル撮りと近く、良くも悪くもあまり冒険を感じない趣味である。

 私がやりたいのは旅先のちょっと良い感じの街角でマイクを立て、ついでにその場の映像も録るものだ。
 だから主体は録音なのだが「なんとか鳥の発情期の声が録りたい」というようなスペシフィックな録音を志しているわけではなく、またいわゆるピュアオーディオと呼ばれるHi-Fi命懸けの音質至上主義でもない。アンビエント(環境音)をそこそこの音質で、マイク放置で録りたいのである。

 私の場合、録ることが楽しいのではなく、あちこち行って録ってコレクションして並べて違いが楽しみたいので、可能な限り手軽かつ望んだ形で音が録れる機材を探しているのだが、この領域でも質と機材のサイズ、値段が直結しており、また細かい仕様違い、組み合わせによって頭を悩まされている。

放置型とそぞろ歩き型

 当初はDJI OSMO Pocket 2がジンバル内蔵で歩き録りが出来、かつ4Kで電池とメモリーカードの続く限り録画が出来るので映像をこれで録り、音声はRolandのイヤホン型バイノーラルマイクで町を歩き回ってバイノーラル録音をしよう、とチャレンジしてみたのだが、実際にやってみると特にバイノーラルである必要はなさそうな気がしてきた。

 この動画は実際に愛媛の八幡が浜というところでバイノーラルそぞろ歩きフィールドレコーディングしているのであるが、なんというか「だからどうした」感が強い。録る場所、録り方、後処理などなど至らない点が多々あるのは確かだが、少なくともバイノーラルである「から」面白いわけではない、というのが分かったし、耳にバイノーラルマイクをくっつけて歩き回るのは意外に面倒だった。自分の顔の向きに常に気を使わねばならないのだ。不用意に向きを変えるとケーブルがあちこちに触れてノイズを発生させてしまう。

 今後は街角にカメラとレコーダーをそっと置き、その街角の様子をそのまま真空パッケージするような放置型を主体でやりたいと思っているが、人口密集地ではそぞろ歩き型のほうが良いかもしれない。どちらもバイノーラルはやめて通常のステレオ録りで良さそうだ。

単体レコーダー

 ここ数日、TASCAMのDR-05Xという無指向性のマイクが搭載されたリニアPCMレコーダーを使ってみている。これがとにかく手軽で良い。

 レコーダーの性能でいえば、同じTASCAMでもPortacapture X8のほうが上位機種であり、音質もそちらのほうが好みではあるが、DR-05Xは軽くて安くて無指向性というところが良い。電池も単3乾電池が2本かつ消費電力が小さいので気兼ねなく使える。
 内蔵の無指向性マイクはLとRのマイクの距離が近いのでステレオ感は強くないが、音質的には及第点だ。カメラでいうところのマイクロフォーサーズ機に似たところがある。価格も含めシステムがコンパクトにまとまるのは旅用として強い。

左:Portacapture X8 右:DR-05X

 X8は外部マイクが接続出来る上、内蔵(というか付属の)マイクの音質も素晴らしいが、外部マイクをセットしてばらして、と現場でやるのが非常にだるく、運搬、設営を旅先の空き時間で細かくやるのは不可能と感じている。スナップ的でないといえば良いだろうか。録音が主たる目的であれば遠慮なくX8 + 外部マイクを選択するが、電車や飛行機移動、かつ写真も撮るような際の「ついで」遣いには向かない。

TASCAM Portracapture X8 + Rode NT-5 Omni capsule

Portacapture X8内蔵マイク

 PortacaptureX8はステレオミニで差し込むタイプのカーディオイドマイクも大した音質なのだが、繊細すぎて吹かれ易く、屋外での放置型、長時間録音には向かない。32bit floatとはいえ長時間録音している最中に突発的に吹かれてしまうと台無しである。

 TASCAM純正のウインドジャマーもあるがいまいち効果が薄い。これはマイク自体の吹かれ耐性の低さに起因するものだろう。ちょっと風が吹くと遠慮なくノイズが入る。
 これに対処するために、Bubblebeeというウインドジャマーメーカーが専用品を販売している。日本ではSystem5が代理店をやっているようだ。どうしても付属マイクが使いたければこのジャマーが私の知る限り最強である。これで満足できなければ外部マイクを使うしかない。

 またX8付属のカーディオイドマイクは先述のようにステレオミニプラグを差し込み、固定ネジを回すと自動的に奥にあるピンを押し込み、本体が純正マイクと認識する仕組みになっている。社外品のステレオミニ端子を接続すると、ただのバランスモノラルとして認識される仕様だ。

 わざわざこんなギミックがあるということは、何かしら交換用のマイク、たとえばショットガンマイクや無指向性マイクなどが後から発売されるのかと思っていたのだが、後継機Portacapture X6が発売されるとこちらはマイク交換できないタイプだったので、ひょっとするとTASCAM内部で当初企画されていたものがなくなったのかもしれない。

 またマイクの指向性は、カーディオイドよりもオムニ(無指向性)のほうがパンチは出にくいものの、とにかく自然な音質で好みなので、その点でも無理にX8を使うより、最初から無指向性のマイクが内蔵されたDR-05Xを使うのは理にかなっている。

 DR-05Xの問題はマイク間の距離が短いのでステレオ感がほとんどないことである。ステレオ感だけでいえば、兄弟機のDR-07Xのほうが良さそうだからそのうち試してみたい。どちらもX8と比べると32bit floatではなく通常の24bit機なので大きな音源が近づいてきた際はメーターを見つめながら祈るしかないが、遊び機材だからこそ小型軽量を優先するべきだろうという判断だ。大型機材のめんどくささで機会を減らしては意味がない。

Portacapture X8の上にDJI Pocket2。ちょっとしたテスト。

カメラ

 フィールドレコーディングのど真ん中を進む諸先輩方には怒られそうだが、音声だけでは寂しいので映像も記録しておきたい、となると録画するカメラの選定が必要だ。ただ映像作品ではなく主体は音像なので、画質が良ければ良いというものでもないのがポイントである。画質が良いカメラは熱処理の問題もあり大きい。

 先のPortacapture X8とRode NT5で録音した愛媛の海は映像をPanasonic LUMIX S5で録画したもので、きれいはきれいだがこちらもバイノーラル同様、美麗画質であることに意味があるようには思えない。オーバースペックである。

TASCAM Portacapture X8 + RODE NT5
ここに動画用カメラも加わるとセッティングが実に面倒。

 映像も機材のグレードを上げていくとピュアオーディオ的になっていく。SDよりHD、FHD、4K、6K、8K……と、解像度だけでいっても高いほうがインパクトはある。要は美麗な映像にすることが出来るが、私がターゲットにしているのはYouTubeなので過剰になってもいけない。

 条件として浮かび上がってきたのは、

  • クロップなし4Kで録れる
  • 可能な限り録画時間に制限がない
  • USBで給電が出来る
  • 可能な限りボディーとレンズ合わせて小さい

 このあたりである。スチル機に対する要求と比べると大したものではないが、一応どこに行くにもスチル撮りをするのがメインなので、そちらとの組み合わせも重要だ。

 当初はフルサイズ機で動画を、とあれこれ試行してみたところ、どうしてもシステムが肥大化するので旅先で使うには厳しそうだ。スチルでのメイン機になったNIKON Z8を気合の入った長回しで使うのもアリだが、熱が少々心配である。

 最終的に、どのみちYouTubeで写真漫談をやる際にDJI Pocket2を使うのでそのまま流用しつつ、スチル用フルサイズ機のサブとして持っていくであろうOMのMFT機を使うと、画質と楽ちんさのバランスで良い塩梅だろうという結論に達した。

 今のところMFT機をジンバルに載せる計画はないが、逆にいえばEM1Mk3程度のカメラであればジンバルに載せるとしても大して大振りなものは必要ない。小さいことは良いことである。

 OMのMFT機はEM1Mk3とE-P7を所有しており、EM1Mk3は4K動画クロップなし+録画時間制限あり、E-P7は4Kクロップあり+録画時間制限ありだ。
 クラス的にその中間に位置している最新機種のOM-5を買えば、4Kクロップなし、録画時間制限も解除され、EM1Mk3よりも小ぶりなのでもっとも限りなく理想に近いのだが、そのために15万円近くするカメラを購入できるかと言われればさすがにNOなので現状維持である。

 以上を踏まえてしばらくは放置型30分以内の録画であればEM1Mk3、長時間およびそぞろ歩き用はDJI Pocket 2、レコーダーはDR-05Xという形で落ち着きそうだ。

どこか行きたい

 こうしてフィールドレコーディングのテストを細々と繰り返してきたおかげで、自分が何をどの程度求めているのかがかなり明確になった。あとはもう旅立ってしまえばOK、という状態であるが、最大の問題はそこだ。

 コロナも体調不良も、それ以前に出不精も相まって外に出たくない。最大の敵は自分とはよくいったもので、元々写真を撮るために仕方なくあちこち出かけていただけで、別に旅行が好きということはない。公共の交通機関も、特に飛行機のように人権を制限するタイプのものは苦手だ。

 しかし西東京にいた頃と比べれば、常滑に引っ越してあちこち動き回っているおかげで少しずつ体調も整ってきている。

 コロナ後、初の海外は台北あたりと決めているので、最高気温が30℃を下回ったあたりを狙って遊びに行こうと思う。だいたい9月あたりから最高気温が30℃を切り始めるようだから、そのあたりの航空券を見てみることにしよう。


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