照応:実データは常に乖離している

 前回、「窃視する趣味」を書いた際、照応という言葉を使うにあたってAIに相談した。

 AIはストレートな表現であれば対応だね、と言ったが、私はそれなら照応で押し切ろうと決めた。対応という言葉を使った場合、まるで一対一できちんと対になっているように感じられるが、写真の場合「そこまでぴったり合わない」前提があるからだ。

 写真の見た目に対して、実データは常に乖離している。モニターに表示されているのは実データそのものではない。JPGであろうとRAWであろうと、必ず翻訳されたものである。「白飛びしているように見える」のと「白飛びしている」のは全く別の出来事なのだ。

 私たちが二人として同じ性能の肉眼を持っていないのと同様、写真のデータ表示も実データを直接見られているわけではないから、同じデータであっても、再生環境が違えばソフト的な意味でもハード的な意味でも見た目が変わってしまうのが当たり前である。

 考えてみれば、世の中の技術は、半分以上がこうして実データを直接触らず、間接的に影響を及ぼすものなのではないか。それは時間を隔ててしか効果が出ない類のものも同様なのかもしれない。政治の世界では、今した施策の効果が数年後に出る、ということがよくあるし、農業だって育成過程は間接的なパートも多かろうと思う。

 写真は撮った時点では完全な形で見ることが出来ないから、少なからず完成の状態を予測しながら撮るしかない。そこに技術がある。

 映像の世界は多人数で動くこともあり、可能な限り現場で完成に近い状態を見たい、という動機が強く働く。たとえば映画をフィルムで撮っている時に、撮影直後に芝居をチェックすることはフィルムで撮っていると不可能だから、カメラ内で光を分岐してビデオ録画したりする。

 スチルの場合も、パソコンとカメラをUSBケーブルで接続し、撮影直後のデータを表示するテザリングで完成に近い状態で見たがるデザイナーやクライアントは多いが、私個人としては、写真のクオリティ最優先で考えるのであれば、あまり推奨していない。

 仕事の場合、良いものを作るよりも、先に保身をするべし、というのがある意味では正しい姿勢なのだろうと思う。

 テザリングは、カメラマンの立場からすれば「デザイナーさん、あなたが現場でOKと言ったよね」と責任を転嫁出来るのでありがたいといえばありがたいし、デザイナーもクライアントに対して同様のことが言える可能性がある。要は現場で言質を取るための装置なのだ。その点では便利である。

 ただ、テザリングはモデルの前にモデルが見るための鏡を置いて撮るのと同様、意識の方向を散漫にしてクオリティを下げるものである。パッと見の仕上がりは、モデル自身が自ら欠点を潰す方向に動くので上がったように見えるのだが、それはProToolsで整えたトラックのように欠点が少ない状態でしかない。

 欠点が少ないことは、「良さ」を担保しない。業務であれば、誰からもツッコまれないものが優れたものだということになりがちだが、広告でそんなアリバイ作りみたいな仕事ばかりしていてよく飽きないなと思うのである。まずは意識の流れを整理し、それぞれが現場での責任をきちんと負うために、テザリングをやめてみることから始めてはどうか。

 このようにテザリングはじめ、現場でギリギリまで完成状態に近い素材を見たいというのは、ある種の怠惰であるというのが私の持論であるが、この流れも生成AIに侵食されるのと同様、止められないだろう。単に便利だからだ。

 しかし技術の本質が、実データとの乖離を脳内で補完しながらデータを作ることであるのは、これまでもこれからも変わりがないだろうと思う。


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