届けたいのは誰か?


 Panasonic DC-GH6を買うかどうか、本気で悩んでいます。

 必要かといわれるとそう必要でもないのですが、画質的にPanasonicがMFTというフォーマットをブレイクスルーしているマシンっぽいな、その気合を実機で感じたいな、という気持ちがけっこうあります。α9の時に近い感じ。
 Panasonicはメーカーの姿勢としても堅実で必要以上にチャラくならないあたり好感を持っており、味のある親切なおっさん的立ち位置で非常に頼もしいんですよねPanasonic。

 GH6、買う理由も買わない理由も沢山頭の中に浮かんでおりまして、ひとり百家争鳴状態というのでしょうか、頭の中で「買っちゃいな……買っちゃいなよ……」「いやいや手持ちの機材で十分じゃん」「買い足すにしても30万も使わんと、もっと手堅く」「マイクも買わないといけないし」「いやいやいや」みたいな状態です。

 まあ買いたい理由の筆頭は「面白そうだから」ですね。それが一番大事です。そこでグッと来るかどうか。なんせ仕事で使うのはNikon Z7で十分じゃん、という形になっているもんですから。

雑誌でMFTを使うプロもけっこういる

 マイクロフォーサーズの限界を知りつつ、雑誌やなんかで使うプロが結構います。雑誌の場合、高解像度がさして必要なく、バリッと強く明快なイメージ作りが求められるので、特にOlympusのMFT機が良いよ、と言う人がいると「なるほど合理的だなあ」と思います。使ったことがないのでアレですが、RAWで撮った上手い人の上がりを見ているとPanasonicより癖がなさそうな印象です。

 クライアントに対してのハッタリどうこうで中判を持ち出すプロもいますが、そういう話はほとんどが広告の話であって、雑誌なんかの場合は超低予算化の流れもあり、とにかく要求水準を満たす限りあらゆる点で安く済ませよう、となるのは理解できます。いま雑誌カメラマンの平均ページ単価っていくら位なんでしょうね。先日、とんでもない単価を実際に撮影されている方から伺っておののいているところです。そらフルサイズ使っとれんわ、というレベルでした。

 ファッションみたいな領域であれば微妙なニュアンスが必要なのでセンサーサイズが大きいものが求められるのかもしれませんが、雑誌が扱うものって驚くほど多岐にわたるわけで、常にフルサイズ機の画質が必要かといわれると全然そんなことはありません。被写体によってはMFT機のバリッとコントラストが強くエッジが立った絵の方を好ましいと思う人もいます。高級懐石とマクドナルドみたいなもので、どちらが好きな人もいますからね。

 私の場合、MFT機はほぼ趣味の領域で使うので、クオリティについては自分が満足出来ればOK、という感覚でいます。まあ趣味といっても「依頼撮影でない」というだけで、日々のスナップやなんかは毎週まとめてPatreonで会員さんたちに見てもらう機会を持っているので、純粋な趣味とは違っているのですが、それでもコンデジだろうがMFTだろうが、私が撮りたいものが撮れればOKというのは変わりありません。第三者から質について要求されることがないもんですから。

 ただまあ、繊細なトーンを大事にしようとすると、他の人が撮った写真の出来上がりの状態を見ても「MFTっぽいよね」と感じることは多々あります。この部分はカタログスペックに現れないので、自分でカメラを買ってRAWをいじってみるしかありませんが、GH6はチラチラ出てきている作例を見る限り、どうも既存のMFTの枠を超えたトーンの良さを持っているような気がするな、と感じています。

予断

 MFTで撮ったという情報が付与されていると、カメラ好きの人間ほどどうしても予断をもって写真を見てしまいがちです。MFTなのに、MFTだから、と写真を見る前から画質を云々するモードになってしまうんですね。

 ポジティブなほうでいえば代表的なのがライカでしょうか。誰もが高級で素晴らしいと知っているライカで撮った、と言われると、「へえこれがライカの写りかあ」という風に、良い予断を持ってもらえる可能性が高いんであります。しょうもないものを撮っても、「ライカでこれを撮るんだから何か意味があるに違いない」と思ってもらえる可能性が高くなります。

 逆にいえば「ライカで撮っているのにこんな程度なのか」と言われる危険もあるのですが、これはMFTに置き換わってもネガポジが反転するだけで同じことだと思うんですね。

 つまり「MFTなのに」だとか「MFTだから」という風に、カメラの情報ありきで写真を見られてしまうんです。それって実際は写真を見ていないわけで、MFTを使うネガティブな点の一つは、そこに囚われがちになること。

 私自身、コロナの緊急事態宣言が発布された直後、モデルがiPhoneで撮った写真がファッション誌の表紙に使われた、みたいなニュースに接して「なるほどこの画質はiPhoneだわな」と思ったりしました。
 雑誌の編集者からすれば一つ注目される話題を作って良かった、ということなのかもしれませんが、純粋に写真でやり取りがしたい立場からすれば、機種を前提に写真を見ているわけで、おかしな話です。

 世の中は白黒はっきりしないからこそなんとか上手く回っていることが多いので、「カメラの機種やブランドを念頭に写真を見るのは絶対に駄目!」ということはなく、SONY DSC-RX100という機種をきっかけに私のことを知ってくれた人もいるので「ありがたいな」とは思うのですが、純粋に写真でのやり取りだけを考えると、カメラの機種で写真を見る以前に予断を持っている、持たれていることって、あんまり幸せとは思えません。

 もしカメラの機種で予断を持たれるのが当然であれば、カメラの機種選定からして「予断を持たれるだろうから」と入らざるを得ず、とても建設的とは思えませんし、逆にショボいと思われている機材で撮って「おお! あのショボ機材でこんなに撮れるなんて!」と驚かせてやろう、という意図があったとしても、それはそれでカメラに振り回されてしまっているわけで、なんだか違うなあ、と思います。

 機材好き同士のお遊びとしては全然アリなのですが、それを「お客さん」とのコールアンドレスポンスの中に混ぜるのは違うよな、と思うんですね。というかアホな話ですがようやく「違うんだな」と理解出来たといいますか。お恥ずかしい話です。

 カメラが好き過ぎるとなかなか気づかないのですが、世間の人たちも自分と同じようにカメラやレンズを偏愛しているわけじゃないのを忘れちゃうんですよね。

音との関連

 そうなったのはもちろん音を録り始めたからで、音の世界では「このマイクで録ったから」みたいのはマイクオタクにしか通じませんし、その数は写真、カメラ界隈と比べるとめちゃくちゃに少ないんですよね。絶対数でも少ないですし、録る人と聴く人の比率という意味でも圧倒的に少ないと感じます。

 録音機材にこだわる人の気持ちも分かりますし、私も実際にマイクやレコーダーの型番でレビュー動画を検索する日々を送っていますが、それは飽くまでも録る人同士の内輪の情報でしかなく、特にネイチャーの録音の世界は極端にロケ地と運と根性に左右されますから、人の次に機材が来るのが明快で、音を聴く際に「何を使った」が「誰が録った」よりも先に来ることがあんまりなさそうな雰囲気です。

 これって個人ユーザーからすると理想的かもしれません。ある程度経験を積んでしまえば「同じマイクを買ったってどうせ同じ音にはならねえよ」というのがありありと分かりますから。メーカーからすると優良誤認を起こし辛いのでものが売りにくくて仕方がないでしょうね。芸能人を起用した化粧品の広告みたいな優良誤認で9割がた出来上がっている世界とは正反対のようです。

 また音の方は写真と違い、明確に「音が聴きたい」というオーディエンスがたくさんいるのが特徴で、オーディエンスは「どんな機材を使おうが知らん」というのがはっきりしています。例えば浜崎あゆみがレコーディングで使ったマイクと同じものを買いたい! みたいなのはごくごく一部の変態であって、マイクやレコーダーについては一般ユーザーは興味がないと思います。私もメタリカの録音機材には興味がありません。

 これは雑誌の読者に近いものがあるんだろうなと思うんですね。雑誌の読者は情報そのものを求めているわけで、使用機材が影響しないとは言わないものの、「何が写っているか」のほうがよほど大事です。カメラ雑誌ですら、「何を写しているか」で機材の印象をアップさせる優良誤認を行っています。より可愛い子が写っているとレンズがより良く見えてしまう効果、誰も否定出来ませんよね。

 繊細なトーンこそが見せたい、美しい構図を何より見せたい、みたいな写真言語を愛する人間からすると対極みたいな世界ですが、アートというか美術の世界でない限り、それで良いんじゃないかなと思うようになりました。受け取る人がいないと話が始まりませんからね。歴史的な偉人になることを目指しているわけではないので、死後に発見、評価されてもしょうがありません。

 そうやって音の世界と対比、対照しながら考えていくと、自分が撮りたいもの、届けたい相手、届ける形、それをふまえた上で自分が必要とする画質が明確になってきて非常に気持ちが良いなと感じています。

 MFT機だけで旅先を、下手をすると働くおっさん取材まで撮ってしまうことも自分が認めればOKになってしまうわけで、そうなったら楽ちんさでいえば最高ですが、実際に過去の取材でフルサイズ機のZ6とMFT機のG99を比較テストさせてもらった際は、G99では国内で日本人を撮ってカラーで見せるにはギリギリ物足りないな、という結論でした。

 これがモノクロかそれに近い形で撮ろうと思っている「働くおっさん」系であればアリっちゃアリなんですよね。もともとある程度大きくプリントする可能性を考慮してのZ7なので、そこを気にしないのであればMFTで撮っちゃうのもアリです。
 撮影機材の面から写真を見る人はゴソッと減るのかもしれませんが、それはそれで写真本来のコミュニケーションが出来るのでアリかなという気もします。フルサイズだからこそ与えられる「なんでか分からないけど気持ち良い」部分もあるので、慎重に決めないといけないですけどね。

 その辺りも含め、GH6を買って、Panasonicの皆さんがどこまでMFTの殻を破っているのか確かめてみたい……と書くとGH6購入確定みたいですが、まだ買っちゃう! と決まったわけではありません。もうちょっと悩みます。


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