記録、紹介、視点の共有


 先日、関東出張に行ってきた。

 銀座で夕暮れ時におさんぽスナップワークショップをやった際、自分もパチパチ撮って回ったのだが、関東出張に出る直前に購入して慣らしがてら使っていたNIKKOR Z 50mm F/1.8 Sというレンズで撮った写真を見返してみると、撮った時点の自分の感覚をトレースしているような、自分が改めてその場にいるような気持ちになるのに気づいた。

NIKNO Z6 + NIKKOR Z 50mm F/1.8 S

 それはレンズの独特な描写のせいなのか画角のせいなのか。恐らく両方かけ合わさっているのだろう。

 50mmのレンズというのは広角でも望遠でもない、中途半端な角度で写る標準と呼ばれるレンズである。
 その中途半端さから苦手とする撮影者も多く、わたし自身旅先では50mmよりも少し広角である35mmのレンズを多用してきたが、最近になって過去の写真を見返してみると余分なものが写り込んでいる場合が多く、散漫な印象を受ける写真が珍しくない。

 それと比べると50mmは自分が見た景色や、その場に立っていた感覚がストレートに伝わる情報量に調整される気がする。撮る時点では少し狭く感じるので、もうちょっと周辺部を入れておかないと説明が足りないんでは……という気持ちになるのだが、勇気を持って切り捨てると後から見た際に案外良い。
 その切り捨てのおかげもあって、後から見返してみると撮った自分と見る自分の視野がシンクロする感じがする。

NIKNO Z6 + NIKKOR Z 50mm F/1.8 S

 最近、旅写真は記録、紹介、視点の共有の3種類に分けられるような気がしている。

 記録は備忘のためのもの、紹介は後から同じ場所を訪れる人のために撮る親切、視点の共有はそれらのどちらでもない、撮影者が現地でどう感じたかを写真を見る人と共有するために撮るものだ。

NIKNO Z6 + NIKKOR Z 50mm F/1.8 S

 実際はそれら3つの撮り方がオーバーラップして旅写真を形成していくことになるが、そうやって3つに分類してみると、どういうカメラやレンズを使うかも自ずと決まってくる気がする。記録はスマホで十分だし、紹介はズームレンズが適している。視点の共有は何を使っても良いが、私の現在の撮り方の場合、どうも標準画角のレンズを使うとしっくり来るらしい。

 カメラマン業ではイベント撮りなどの際、紹介することを目的として撮る場合が多い。
 イベントでの紹介的な撮り方は、イベント主催者が次回開催の際、より出展者を集めやすく有利に振る舞えるように配慮する。たとえばこのブログ内の日光東照宮の記事については不親切なところもあるが、基本的に紹介のアプローチだ。

 だがそれを旅写真に当てはめた時、写真を見た人が旅を感じるだろうか?

  現地に行けばこういうものが見られる、こういうアクティビティが楽しめる、という保証のような形として紹介写真は機能するが、それでは写真作品としては成立し辛いだろう。旅を情報にするのと旅情報を売るのは根本的に違う行為だというのが、こうして撮り方を分類することでようやく分かった。これまで必要もないのに紹介写真を撮りすぎたのだ。

NIKNO Z6 + NIKKOR Z 50mm F/1.8 S

 紹介写真はそれこそ日光東照宮の記事のように、ズームレンズを付けたMFT機で足りる。記録などスマホで問題ない。であれば、自分が旅先で見たもの、感じたことを写真を見る人と共有するための機材をメイン用に選べば良いのである。

 今回NIKKOR Z 50mm F/1.8 Sを使い込んでみたことで、そのあたりがスッキリ整理されてだいぶ明快になった。この組み合わせで撮れるもの以外要らない、となるほどの勇気はまだないが、それに近づいてきている気がする。


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