画家のトレース問題について思う


 こんにちは。急激に天気が良くなってきて困惑している伴です。

 数日前から、画家の宮廻正明さんが院展に出展されていた(どころかポスターに使われていた)絵が、ソウルフラワーユニオンのジャケと酷似しているというので当のソウルフラワーユニオンのTwitterアカウントから告発がありました。

 私のところにはこのツイートが回ってきまして、なるほど元の写真と酷似しているなという印象でした。

 左右反転させてあること、また横に並べて模写というレベルではなく、拡大プリントしたものを下に置いて上からなぞったでしょ、というレベルの重なりっぷりなので、こりゃトレースだなと。

 当の宮廻さんは釈明の文章をinstagramに上げておられて、現在は削除済ですがインターネットというのは恐ろしいものでキャプチャされたものが残っています。

 もしもトレースでなく模写だ、ということで争うのであれば、これと同レベルのものを、写真 → トレースではなくスケッチ → 一度寝かせて本番、という手順を経てもオリジナルの写真と告示した、重ねてぴったり合うレベルの絵が描けることを証明しなければなりませんから、いくらなんでも厳しいだろうと思います。

 こいつぁどうなるんだろうな、ぬるぬるっとなかったことになるのかな、と動向を見守っていたところ、昨日からあちこちのニュースサイトで、作品を展示していた院展を主催する日本美術院が作品を撤去の上、宮廻さんに対して理事の職を辞することを求め、かつ謹慎処分一年以上を申し渡したというニュースが出回るようになりました。

 宮廻さんは他にも東京藝大の名誉教授などあちこちに名を連ねておいでのようで、続報を注意深く待つことにしましょう。
 私は関係者でもなんでもありませんからすべての職から追放されるべし、というようなことは思わないのですが、各組織が問題に対してどうリアクションをとったか、とらなかったかで組織ごとの品格が分かります。

 私自身はこうした問題はインターネット時代によく暴かれる盗作問題の一つであり、個人として「許せねえ!」というような気持ちには特にならないのですが、当フォトジャーナルとしては、写真を下絵として絵を描いていた、というところに写真側から興味を持ち、取り上げることにしました。

関係者?

 こちらのニュース記事を見ていただくと、

 宮廻さんは毎日新聞の取材に「関係者から写真のスケッチを認めてもらい、それを元に制作した。本来なら共同作品として、コラボレーション展に出すべきだった。今後はこのようなことがないようにしたい」と話した。

https://news.yahoo.co.jp/articles/dedcc1ca93771012b5abd84ed8bfac7fce06a566

 ということでして、スパッとしない曖昧な表現になっているんですね。

 まず「関係者から写真のスケッチを認めてもらい」の部分がよく分かりません。

 まさか関係者に「したためて」もらった、つまりスケッチを描いてもらったということはないでしょうから、宮廻さんが描かれたスケッチを「関係者」に「みとめて」もらったということなのでしょう。

 写真からスケッチを描き、元ネタの写真を、写真家本人ではなく関係者に認めてもらった? それはそれとしても、数十年前のパーティで写真家の関係者に会った、という話がすでに消されたインスタにあるのですが、写真の撮影は2000年代のようですから、まずそこからしておかしい。

 また、関係者を自称する人から認めてもらったところで、写真家つまり著作権者本人から許諾を得ないで使っている時点でアウトなんですよね。現に写真家本人は、Facebookにてソウル・フラワー・ユニオンについてはジャケに使われたよ、でも宮廻さんについては知らないよ、と言及されている模様。

 許諾を得ましたよ、使わせてもらっていますよ、ということなら最初からクレジットを付けるはずですが、ありません。ここに作為を感じます。
 出来ることならどこかからトレースしたということは言わず、すべて自分の作ったものであるということにしたい……ということなのでしょう。あくまで推測ですが、そうでなければ写真家本人から許可を取ってクレジットを付けている筈ですよね。

 後日出た釈明文はこうなっています。

https://miyasakomasaaki.com/gingaprocess.html

 まずテキストでなくJPGになっているところからして謝罪よりもできるだけ傷を小さく済ませる方法を探しているんだなという感じがムンムン伝わってくるのですが、内容的にもまず写真家に失礼な上にあやふや。釈明をそのまま信じるのだとしてもここまで写真と構図が酷似することはなく、なんだかなあという印象です。

絵と写真

 絵画をやる人の中には、写真が芸術だということを理解しない人がけっこういるんですね。これは写真しかやらない人間の率直な意見です。

 複製性だのなんだので、写真はたしかに複製が容易、しかも機械を使ってやるものなので誰でも出来るじゃん、と思われがちですし、そもそも「正確に描写する」こと自体が現代の芸術ではそう必要とされないことからも、一段下に見られがちです。

 また、写真は絵画の人からすると、「自分が描いたものを記録するための媒体」という捉え方をする人が多いので、写真そのものが芸術になり得るということにいまいちピンと来ない、飽くまで便利ツールじゃんという捉え方の人が多いんですね。

 これは絵画の人であっても彫塑の人であっても版画の人であっても似たようなもので、まあ写真をやっている側からすると、その便利で曖昧で親しみやすいところが写真の長所でもあるので、青筋立てて議論する気もありません。

 ただ、前述の釈明文に漂う高いところから見下ろす視点については、話の整合性を抜きにしても「へえ~なるほどねえ」という気持ちになります。しかもそうやって一段低く見ている写真から元ネタを探してトレースしているあたり、アンビバレントなものを感じます。

もう一点

 もうひとつ写真の側から見て興味深いのは、宮廻さんがトレースした元の写真がストックフォトで販売されているという情報があることです。

実際、agephotostockというストックフォトサイトで元の写真が販売されています。

https://www.agefotostock.com/age/en/Stock-Images/Rights-Managed/MWO-MW016532

 ストックフォトというのは、フォトグラファーが写真を撮り、それを素材として使用する権利を売るものであります。

 デザイン業界の方がよく買っておりまして、撮影をわざわざ依頼するほどのものではないしそこまでの予算はないのだけど、このあたりに気持ち良いの良い海の写真が欲しいなあ……なんていう時に「海 晴れ」なんていうふうに検索して用途に合うものを購入するシステムです。

 画家の宮廻さんは、ここから写真を買われていたんでしょうか? それとも買わずにトレースだけしたのでしょうか? さらにはもっと別のルートから? このあたり気になるところです。

 それによっても権利問題あれこれ変わってくるとは思うのですが、まあ出展を取りやめ、今後販売されることもなくなったのでしょうから関係ないといえば関係ありません。

クレジット問題

 ストックフォトの場合、クレジット明記が必要ない場合も多く、私も自分が撮った写真をストックフォトで写真を販売する際、それが誰に買われて何に使われるのかはぜんぜん分かりません。

 極端な用途についてはストックフォトの側で「アダルト目的の商品には使わないでね」というような形で規約がありまして、一応そこに沿って使われている筈なのですが、実際は誰がどう使っているかはほぼ分かりません。

 今回の絵画については、ストックフォトで権利を買ってそこからトレースしたのか、それとも他のインターネットトレパク問題のようにPinterestで「これいいじゃん」と引っ張ってきたものが使われたのか、外野の人間には分かりません。

 約定によっては宮廻さんがクレジットなしで写真を下絵にしたことそのものは、法的には咎められるものではないといえる可能性があるのです。

 ただ、それが美術世界としてアリなのかナシなのかの問題になった時、ナシだったのでしょうね。少なくとも日本美術院の皆さんにとっては。
 その点については、法的にどうこう、そして本人がどうぬるぬる言い訳しようがダメ、という意思を感じたところで、好感を持つところです。

最後に

 最後に、最初の告発ツイートにぶらさがったリプライを見ていただくと、宮廻さんの絵画「銀河鉄道」の作品解説をコピーしたものが見られるのですが、

 現代美術というのが意味のないところに意味をくっつけてアート化していくというのは本当なんだなあ……というのを実地で見せてもらった部分に一番の面白みを感じた次第です。

 写真から反転してトレース → 元の写真の価値に加えて手作業で絵を描く行為 + ポエムで意味づけ、でアートにしている、という高度なコンテクストだったのかもしれません。

 もしも自分が同じようにコンセプチュアルなことをやろうとするのであれば、権利関係に加えてコンテクストももっと整理しなければならないんだな、という学びをもたらしてくれたことは、税金で運営する東京藝大の名誉教授が社会に対して果たすべき役割としてはぴったりだったのかもしれない、と思います。

 私が今朝撮ったこの「スイカの抜け殻」も、長大で意味がよく分からない解説をつければアートらしく見えるんでしょうか? きっと見えると思いますし、それ自体は良くも悪くもないと思うんですね。

 それではまた。


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