好きなことを仕事にしようとすると大変

 こんばんは。今日は休みということにしてあるのですが、台風3号が南の海で産声を上げたせいか、それとも急に暑くなって湿度も上がってきたせいか、体がバッキバキでほとんど何もしておりませんでした。休みだからこそちょっと写真を撮りに行ったりしたかったんですが無理! ということで強制休養です。

大坂なおみさんの件

 テニスプレイヤーの大坂なおみさんが、全仏オープンを前にして試合後の記者会見を拒否、という話題がなぜかTwitterの私のタイムラインに出てきまして、そんなに強く興味を持っている人がいる話題でもないと思うのですが、Twitterは運営がかなり左の方に偏っていることもあり、恣意的に人種問題だのに結びつけて世論を喚起しようとしているのだろうな、とぬるく見守っております。

 世の中には、残念ながらスポーツに全く関心を寄せない人間もたくさんいますからね。私もその一人。

 大坂なおみさんの件は関心がないなりにニュースを見てみますと、他の現役選手たちからも反論があるようですね。
 私の立場としては完全な他人事なので、大坂なおみさんがBlack Lives Matterなどの政治的な問題を思い切りスポーツの場に持ち込んでいたにも関わらず、自分が試合に負けた時は大事にしてほしい、そっとしておいてほしいというのはアリなのか? という最も情緒的な批判に対して「なるほどそういう意見もあるのね、わかる」と思いますし、同時に一人の人間として、記者といっても根性のネジ曲がったクソ野郎だって絶対に混じっていますから、わざわざ傷に塩を塗り込むような質問をして得意満面の奴だっているだろうな、それは可哀想、と思ったりします。

 しかし大事なのは、大坂なおみさんがどれくらい認識されているか分からないのですが、テニスというスポーツを純粋にプレイしたいのだとしても、そこにお金を絡めて仕事にしてしまっている以上、記者会見も含め、純粋にプレイするだけでは済まないんですよね。そこが辛いところです。

 大会をネット、テレビ、あるいは会場にチケットを買って見に行くファンの人が一定数いるからこそ大会は成立しているわけで、極端な話、私みたいに興味ゼロの人間ばかりだったら大会は完全にアマチュアリズムに則って関係者全員手弁当で行うしかありません。収益の上げようがありませんから。

 オリンピックと同様、ファンが沢山いるからこそ、その沢山のファンに対して宣伝効果を期待するスポンサーが付き、広告費として莫大なお金を投入するおかげで選手のみならず委員会の名誉職の皆さんにも金銭その他の便益がもたらされるわけで、会見をしてメディアに大会のニュースを流し、選手のユニフォームや会見場の背景に描いてあるスポンサーのロゴを流してもらうことで広告費としてもらう、というシステムになっている限り、アマチュアの祭典のはずのオリンピックですら、IOCの貴族たちの食い物になっているわけでして、純粋にスポーツだけをやるというのは無理です。

純粋さは必ず損なわれる

 全仏オープンやオリンピックの場を、ものすごく純粋に「より強いやつと戦える場」と捉えたとしても、今回の東京オリンピックのように疫病や、戦争を含む政治的な理由で開催自体が危うくなったり国ごと参加できなくなったり、ということもあります。

 競技だけに一意専心でやりたい選手からすると、そういったスポーツと関係のない要因で場が危うくなるのはたまらないと思います。しかし同時に、例えば東側の選手たちは一度オリンピックで金メダルを取れば、東側なのでそもそもがつましいですが国家から一生食っていけるだけの年金がもらえたり、西側の選手も引退後の収入がガツンと変わってくるのは間違いないわけで、スポーツとお金の問題は常に密接にならざるを得ません。

 これは私がスポーツに対して清貧を求めているということではなく、およそ貨幣経済の中で生きている人間であれば、誰もがお金のことは気にせざるをえないというただの事実の確認です。

 大坂なおみさんも、規模がだいぶ大きくなっているようですが、純粋にスポーツがしたいという側面がきっと彼女の中にありつつ、スポーツで優秀で名が上がってしまったからこそそれを自ら政治利用したいという側面もあり、また彼女のプレーを見て喜ぶファンや、彼女の直接のファンでなくともテニスという競技自体を見て楽しんでいるファンが沢山いるおかげでお金がぐるぐる回っているという経済的な側面すべて合わせて大坂なおみという人の活動であるのは間違いありません。

プロという状態

 なぜこのジャーナルブログでこんな話を書いているのかというと、写真で食うためにはどうしたら良いんだろうなあ、というのを、20代の終わりからずっと考え続け、また実践し続けているからなんです。最近の旅ジャーナルも、写真を仕事にするひとつの形態のテストでありチャレンジであり、という側面があります。だから余計に面白いんですね。

 たとえば何かの芸事で飯が食いたいなあ、それ以外やりたくないもんなあ、という人がいたとします。芸事はテニスでも写真でもバス釣りでもなんでも良いでしょう。

 それだけやって食いたいということはプロになりたいということになってしまうのですが、写真のプロになりたい人がプロになるために写真だけ撮っていれば良いかというと、そんなことはありません。

 プロということは技術を換金する手段を持っていないといけない……というか、「プロ」という言葉尻だけを捉えるのであれば、換金する手段を持っていることこそがプロの条件ですから、上手か下手かは二の次ということになってしまいますし、それ自体は事実です。私個人としては、プロつったらこれくらい撮れてくれなきゃ同じプロとして恥ずかしいぜ、というラインのようなものはありますが、そんなものはカメラマン同士でしか通用しません。

 食えていないプロなどというものは話としておかしいですから、プロというのは「それで食っている」状態を指す言葉だと考えています。
 ボクシングの場合はプロテストがあるので「食えていないプロボクサー」という状態が存在しますが、あれはちょっと特殊だと思います。

 テニスプレイヤーの場合、テニスがどれだけ上手い・強いとしても、それを換金できなければ一生プロにはなれないわけですが、テニスプレーヤーが自分でテニスコートを借りてきて、試合相手を自分で探し、チケットを手売りして入場料で食っているかというと、そんなことはありませんよね。そんなプロ柔道みたいな仕組みで全仏オープンクラスの大会までやっていたら大したものだと思いますが、途中からお金になりそうなものには必ずシステムを運営する側として稼ぎたい人がやってきます。

 つまり一介のテニスプレーヤーが自分で直接換金することがなくとも、一定の強さのプレーヤーであれば飯が食ってい行けるようにシステムがあり、そりゃもちろん中間搾取して下手なプロ選手よりも稼いじゃう運営の人も出てくるんですが、それはそれとして、プロのテニスプレーヤーを食わせるためのシステムというのがいつからかそこに存在し、プロのテニスプレーヤーを目指す人はそのシステム内で稼がせてもらえるように自ら飛び込んでいくわけです。そのシステムに参入して一定の額を稼がせてもらえる資格を指して「プロ」と呼ぶ場合もよくありますよね。特にクラス分けやランキングシステムがある場合なんかはそうです。

写真で食う

 テニスプレーヤーの場合、一定数のファンがテニスそのものについてくれている状態を維持しないといけない、というのは先に出したリンク先でも言及している現役選手がいた通りでありまして、個人が個人にお布施をして食えているからプロ、という配信女子みたいな状態は、テニスの世界ではランキングも絡むので成立しないはずですが、まあ自称は勝手ですからそういうプロテニスプレイヤーもいるかもしれません。

 これを写真に置き換えるとどうなのかな、と考えてみると、写真の場合はなんとかアソシエーションがいったんスポンサーたちから集金して大会の賞金として授与、みたいなシステムは一部フォトコンを除き存在せず、また一部の写真会社以外についてはほぼほぼフリーランスが占める業界です。ランキングだのクラス分けだのもありません。

 が、フリーランスだからといって空中からお金を取り出して飯を食っているわけではなく、だいたいが何かしらの媒体で仕事をしてギャラを受け取っていたりと一応システムらしきものがあるんですね。

 私も写真の仕事の中でフラフラしながら、なるほど広告を撮ろうと思ったら代理店か~、というように写真の世界の中でいろんなシステムがあるのを見せてもらってきたので、こういう種類のカメラマン仕事の場合はこういう仕事の流れになることが多いよね、というのは一通り知っておりまして、もし私がその世界で仕事を伸ばしていきたいのであれば、例えば広告撮影をどんどんやりたいのであればここをこんな風に狙う、というのは理解しているつもりです。そのあたりはこの動画で結構みっちり解説しています。

 今回、テニスプレイヤーと大会を主催する委員会の関係性を眺めていて、つくづく一人で仕事を組み立てたほうが楽で良いなあと思います。

 現在私がやっているのは、写真を教える仕事と撮った写真を売る仕事がほとんどです。売る方は大した売上になっていませんが、今後本格運用をするにあたり、しっかり手応えを感じられる状態になってきているので、こりゃもう仕事になっちゃうのかな、と確信を持ちつつあるところ。

 写真を教える仕事にせよ、撮った写真を売る仕事にせよ、間に誰かが入ってお金を集めてきてくれるシステムにしてしまうと、今回の大坂なおみさんのように、自分が望まないところで愛想を振りまかなければならなくなってしまいます。
 何より大変だろうなと思うのは、純粋にテニスだけプレイしてお金を稼ぎたいと思っても、システムに入らないと「ただのテニスが上手いそのへんのねえちゃん」以上の評価は得られない、レッスンプロになるのが限界というところ。

 私も写真を教える仕事をしているという意味ではレッスンプロですし、世界のレベルで他のアーティストたちとバチバチやりたいぜ! というのであれば、テニスの大会ならぬアートのコンペに出して受賞して名を挙げるしかないというのは共通なのですが、少なくとも撮った写真を売る仕事については、受け取った一人が満足してくれればそれでOK、の積み重ねで商売が出来るというのは、間に入った偉そうな名誉職のおじさんに稼がせてあげないといけない、みたいな謎のシステムと比べると非常にフェアで気持ちが良いなと思います。

 まあ私が偏屈なだけなのは重々承知なのですが、下手にシステムが大きくなって、何をしているかよく分からない人がスタッフで増えたりするよりは、直接誰かの役に立てていると実感しながら仕事が出来たほうが、小規模でも楽しいんですよね。あと本当に嫌なことは「やりたくない」で済んじゃいますから、ストレスレベルが異様に低いというのも利点です。

好きなもんを撮って嫌なことをしないで生きていきたい、が一番近い表現かな。

メンタルヘルス

 大坂なおみさんは今回、記者会見についてメンタルヘルスを問題にしているそうでありまして、実際そりゃ凄い負担なんだろうなと思います。

 しかし、そのシステムの中で大きなお金を稼ぐこととその種のストレスは、よほどのレベルにならない限り甘受するしかないだろうなと思います。彼女の場合、その立場を利用してバリバリに政治活動してしまっていますしね。大きなお金を稼げば色んな人のところにお金が回りますから、それ自体は尊いことと思いますが、彼女自身の幸せがどこにあるかというと、会見を拒否していることからも、必ずしもそこにあるわけではないようです。

 ただ、それが嫌なら、私のように嫌なことは一切しない代わりに一人親方で超小規模に仕事をする、テニスならチケット手売りで試合を自力開催してやって行くしかなくなってしまうんですよね。稼ぎは下手をすると数百分の1まで小さくなるかもしれませんが、心の平安は取り戻せるはずです。

 もちろん私が情報を見落としていたり、報道に出ていない事情があるかもしれませんから、これ以上はアレなのですが。

 何はともあれ、彼女が健やかであることを願います。

 それではまた。

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