SNS写真 + 教える、で食う

 わたくし趣味でカメラを買い、遊んでいるうちに営業写真カメラマンになり、そこからなんとか商業カメラマン仕事を増やしてそちらをメインにし、そのかたわら趣味半分で写真講師業を始めつつ、関わったバンドに「YouTubeやりなよ」と言っても全然動かないのでじゃあ俺が、と始めてみたらそちらで集客できてしまって現在写真講師をメインでやっている状態であります。

 写真講師って、昔であればAPAみたいな写真家協会があり、そこにお布施を払いつつ、よその協会のえらいさん同士の繋がりから回ってきた講師仕事をそういった協会の肩書ありきでやったりなんかしておったようですが、私はインターネット世代なので、そういったB to B的なところからは飛び出してB to Cの世界で講師業をしています。

 また現在SNSで写真を教えるよーとやっている人たちは、カメラマン仕事で実績を作って「ほら雑誌なんかも撮っているんだ」という人たちであったり、SNSをメインの戦場に写真家活動をしつつ、教材を売っている人たちであったりします。

 写真講師業といってもこのようにいろいろな形がありまして、私の場合は典型的なところに全然当てはまらない変わったポジションにいるなあ、と思います。そもそもYouTubeは遊び半分でやっていますが仕事感がほとんどないんですよね。プロとアマ、先生と生徒という形でくっきり分けて生徒さんをしばいてお金を巻き上げようという感じではなく、一緒に悩んで成長していきましょう、というスタンスでやっているつもりでいますし、人間を中心に据えてキャラクターで商売しようとすると宗教化するのが一番簡単ですが、そうならないように注意しています。これは結婚後にするべきモテない努力に似ているところがあります。

今日もガリガリが楽しい。

SNS作家

 SNSで写真作品を投げて、それで求心力を持って、というのが現代のSNS界隈の写真作家の典型的なありかただと思いますが、そこから写真を教えることにスライドしていこうとするとなかなか難しいものがあるように見受けられます。

 もともと紙媒体をメインでやっていたような人であればプロカメラマンです、雑誌広告バリバリ撮ってます、と皆さん肩書に付けたがるのですが、バリバリ撮っていたら忙しくて教えている暇などないわけで、私のようにやる気がなかったり体を壊していたりでもしない限りは本業の商業撮影で食っていく方が効率が良いはずなんです。

 ゴルフでもレッスンプロは何かしらの事情で現役バリバリで稼げない人がやるでしょ。レッスンするよりトーナメントで稼いだ方が効率が良いはずですから。バブルの頃に異様なほど仕事がたくさんあったカメラマンで、バブルが弾けたら仕事がなくなっちゃたタイプの方もたくさん見かけますが、そりゃ食っていかなきゃなりませんからね。

 紙の媒体で実績が残せたバブル期までのいわゆるプロカメラマンたちと違って、インターネット時代のカメラマン及びフォトグラファーは実績を見せる指標があやふやになりがちです。素人さんウケを指向するのであれば、芸能人著名人の誰を撮った、というのを実績欄に掲載したがります。商売上はアリでしょうね。
 むしろ私もそういう方向にもっと気合を見せないといけないのですが、私のスタンスは「YouTube見て俺のスタイルが気に入って、写真を置いてあるサイトで納得したら俺のところにおいで」なので、よそと照らし合わせて評価してもらう必要がありません。おかげで自ずと自分の目に責任を持った生徒さんが集まってくれて幸せです。

 SNS写真作家からの講師仕事については、そもそもプロカメラマン活動をしていない人がほとんどなので、生徒さんになるであろう素人さんたちにアピールするプロフィール文が作れず、かつ当人も撮れる写真が「自分の作品」だけであったりするので講師として余計に苦労しているように見受けられます。倫理観がない人であれば、容易に経歴を盛っちゃうでしょうね。

 私は興味がないので経歴ゼロでやっていますが、普通はまあ、経歴で見てもらって幅広く自分の商売に取り込みたいと思うでしょうから、どう経歴をかっちょいい感じにするか腐心する人が多いのも理解はできます。

何を教えるのか

 生徒さんは好きな講師を自ら選んで行くので、100人講師がいたら100通りの内容で問題ありませんし、その内容に優劣をつけることも意味がありません。

 しかしながら、SNS写真作家さんの場合、自分の作品しか撮っていなかったりするので、教えられるネタがすぐ尽きてしまうんですね。

 また大変なのが、生徒さんたちも何を見て誘引されてきているかといえば、まさにそのSNSで流している作品だったりするので、「その写真の撮り方を教えてくれ」ということになりがち。生徒さんの傾向によっては、下手をすると基礎的なことを教えようとしてもそっぽを向かれる可能性すらあります。

 ではその次に何が来るのかといえば、「そういう写真でSNSで有名になる方法を教えて欲しい」しかありません。私はこのあたりから情報商材的なゾーンに入っていくと考えています。

情報商材屋

 私も情報として写真技術の解説を売っている立場であります。Vimeoであれやこれやの技術解説動画を売っておりまして、一部の皆さんに楽しんで頂いているんですよ。

 ただ情報商材屋さんですか? と聞かれると「とんでもねえふざけんな」「あんなのと一緒にすんな」という気持ちになります。
 それは情報商材屋は、SNSで人気者になれる、であるとか、カメラを持ったことがない人でも何ヶ月でプロになれます、みたいな実現性の低いことを、心の弱い人たち向けに無責任に発信して売りつける商売であり、商売の自由があるので売るのを止めることはできないものの、社会にとって益するところはないので必要のない商売だと考えているからです。

 自分の商売は世の中に必要で、あの人の商売は世の中に必要ない、というのは見ようによっては危険ですが、写真に対する考え方として、SNSで人気者になる、カメラでお金を稼ぐことが目標の第一に来てしまうのが単純に嫌いなんですね。好き嫌いはこちらの自由ですから。

 ですからSNS写真作家から講師業へ手を伸ばす皆さんについては、SNSで写真作品で人を引っ張ってきて一定のフォロワーを獲得して、というところまでは「すごいねえ」と心から称賛出来るのですが、そこから情報商材屋になっていくのは違うんじゃないの、と思っています。やるのは自由ですが、情報商材ビジネスをやってしまうと短期的にちょろっとお金を得られるだけで、他に何が残るかといえば写真業界の空気に濁りが残るだけ。

 もちろん写真を売って飯を食うのって非常に難しいのは確かですから、デジタルであれ紙であれ写真作家を志す人たちが「写真が好きだから、これだけで食っていけたら最高なんだけど」という気持ちになるのは理解できます。私自身そうですしね。

 しかしこれ、大事なのは写真作品を売る際に考えるべきことと同じで、「自分が何を売っているのか」に自覚的である必要があるんではないでしょうか。
 情報商材は、ネタがカメラであろうがなかろうが技術ではなくワナビーさんたちの浮ついた「人気者に/お金持ちになれたらいいな」という気持ちを煽ってお金を稼いでいるだけでありまして、それってギャンブルでいう射幸心と限りなく近いもの。わたし個人の気持ちとしては、写真を利用してそこで商売されるのは不愉快です。そもそも技術を理解している人間はそれをすることを良しとせず、またそうする必要もありません。

 YouTubeなんかでカメラ系情報商材屋が広告を流していたりしますが、写真が上手い人はいないですからね。

生徒さんがた

 今日の話はおもに講師側の話でありまして、生徒さん方には自由に講師を選ぶ自由があります。本当の意味で好きな講師を選ぶと良いと思います。

 むしろ私のように、べつに作品作品でグイグイ押してなんとか賞を受賞、有名人の誰それを撮って……みたいにキラキラした経歴がない講師のところに来てくれるのは物好きだなと思います。

 しかし普段撮っている写真にも講師が備えている技術、その技術を支える考え方って出ちゃいますから、講師の撮っている写真を見て納得できた人に教わりに行くと良いんではないかな、と思います。それこそ講師もSNSで写真を流しているはずですし、スマホで撮ろうがごついカメラで撮ろうが、写真技術という意味では一緒。むしろ情報商材系の人は写真が全く見られなかったりするので、そのあたりが良い指標になるでしょう。

 その観点からいえば、本当の情報商材屋写真講師と違い、人気SNS写真作家から講師業に手を伸ばしている人については、既に作品で人を納得させられているわけですから、もうちょっとやりようがあるんじゃないのかなあ、と勝手に思っていたりします。

 ま、そのへんも含め、どう動くかは個人の自由ですからね。私は社会の中で自分の持ち場を守るだけです。
 自分だけ稼げれば良いや、という人なのか、全体を考えて動く人なのかは軌跡を見ていけば自ずと分かることですし、おじさんからするとそういう観察がけっこう楽しかったりします。

 それではまた。

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