スナッパーにとっての愛知県常滑市


 市外局番が03でない東京都下の西東京から愛知県常滑市に引っ越して半年が過ぎた。ここでスナップ写真を撮る人間にとっての常滑市がどういうところなのか、まとめてみようと思う。

 そもそも常滑市に住むことに決めたのは、東京に住むメリットがコロナ始め様々な理由から減じてしまい、またガリガリしたテクスチャーを撮る場所もオリンピックを機に恐ろしい勢いで減ってしまってどこへ撮りに行くにも2時間は移動しなければならなくなったことから、身近にガリガリがありそうで、かつ空港も近く、家賃はじめ生活コストが圧縮できそうだったからだ。

 当初は空港のある常滑市と仕事の中心になりそうな名古屋市の中間に位置する東海市あたりが良いかと考えていたのだが、下見に来た際に常滑を気に入り、そのまま勢いで引っ越してしまった。住んでみると快適そのもので、住む場所としてもスナップ場所としてもたいへん気に入っている。

 空港があるから空路であちこち出かけやすいし、その空港があるおかげで名古屋市内とのアクセスも良い。高速道路に乗ってしまえば45分程度で名古屋駅のあたりまで出られるし、高速道路代をケチっても西知多産業道路があるので時速70kmでかなりの距離を信号なしに走ることができるから得した気分になれる。

 また事前に調べてみたところ常滑は真夏でも常に名古屋市内より2~3℃気温が低い。実際に住んでみても海が近いおかげで空気の通りが良く、過ごしやすい。

事前にGoogleマップで調べた際、駅前にスーパーがあるので安心した。東京の外れと比べ、どの程度不便になるのか実際に住んでみないと想像がつかないのだ。

豊富なガリガリ成分

 実際に住んでみて、たしかに当初の予想どおり東京での暮らしよりも生活コストは下がったのだが、それ以上に常滑の豊富なガリガリに驚かされている。
 ガリガリは端的にいえば荒れたテクスチャーのことで、新しい町並みにはまず存在しない。名古屋市内は空襲で焼かれているので一定以上古いものはほとんどなく、残っているものも東京ほどではないものの土地の利用価値が高いのでどんどん取り壊されて新しい建物になってしまう。

 それは名古屋市内だけでなく知多半島も似たようなもので、暇にあかせて知多半島内をぐるぐる車で回ってみても、常滑市内を除くとさして古い建物はない。愛知県全体でいえば奥三河エリアがなかなかの秘境で廃村もいくつかあるようだが、そちらは交通の便がよろしくない。結局常滑で写真を撮っていたほうが便利な上に面白いのだ。西東京に住んでいた時に、わざわざ秩父や群馬の方へ遠征に行って撮っていたような被写体が徒歩圏内にたくさんある。楽しくないわけがない。

 何も古いテクスチャーを撮るためだけに引っ越したわけではないのだが、この環境に身を置いてみると、富士山を撮るために静岡や山梨に引っ越す人の気持ちが分かる。以前は正直なところ頭がおかしいんじゃないかと思っていたのだが、あれこれ都合がつくのなら撮りたいものの近くに住むのは人生のクオリティーが間違いなく上がる。

撮影スポット

 観光スポットとしては、地元の皆さんに話を聞いたり、WEBの観光案内を見てみると、まずはやきもの散歩道が筆頭に上がってくる。焼き物が好きな人にとっては楽しいものらしく、土日はけっこう賑わっている。

かの有名なとこにゃんと、清掃する市役所職員さん。とこにゃんの頭の後ろを見てはいけない。

 若者向けのスポットとしては商業施設の固まった空港エリアが挙げられる。出島状の中部国際空港セントレアやそのすぐ近くにある国際展示場、そこから海を渡ってイオンモールを中心として人口海岸のりんくうビーチやコストコ、最近できたニトリなどなど。

出島のセントレアそして東横イン。空港もあり宿泊施設が豊富である。

 やきもの散歩道と臨空商業エリアのうち、どちらかスナップのロケ地として選べといわれれば、面白いのはやきもの散歩道である。こちらは常滑人特有の隙間さえあれば焼き物を埋める習性も相まってそこらじゅうに荒いテクスチャーがあるし、界隈の人たちにとっては嬉しくないのだろうが廃屋がそのまま放置されていたりとガリガリ成分が多めである。

ちょっとした隙間があればすかさず焼き物を埋める。

 真面目に歩いて撮って回っても2時間程度のほどよい規模で、当初の印象としてはミニチュア尾道だった。ただ尾道のようなスケールやドラマはなく、「出来ちゃった」感じが強いのがやきもの散歩道の特徴でもある。

いつも撮るアングル。やきもの散歩道内

 セントレアを中心とした商業施設は、土日になると渋滞を起こしやすいのもあり、あまり近づかないようにしているし、ただのショッピングモールや人口の海岸を撮っても特に面白いものではない。

 それでは常滑市内でどこをスナップすると楽しいのかというと、やきもの散歩道も面白くないことはないのだが、そこから外れた路地を歩き回って撮っている方がよほど楽しい。裏を返せば、どこのなに町と指定せずとも、適当な路地を歩き回って写真を撮っているだけで楽しめてしまうのである。これはスナップロケ地としては凄いことだ。

漁港と猫

 常滑は西側の海沿いに点々と漁港があり、その漁港の周辺に住宅地があり、そこから東側、半島の中心に向かって坂を上っていくと農地が広がっているのが基本だ。

 漁港そのものにはそう撮るべきものが見当たらないが、漁港周辺の古い路地や、そこから坂を上って行った先で海を見下ろすと、なんだか特別なものを見たような気持ちになれる。高低差は写真にとって正義なのだ。

 漁港といえば猫だが、猫は漁港では見かけることがまずなく、その周辺の路地で遭遇することがある。
 半年もうろうろしていると、だんだん自宅周辺の猫マップも頭に入ってくるのだが、常滑の鳥と猫はとにかく警戒心が強く、ゴロゴロとすり寄ってくるような猫には一度も会ったことがない。

 焦点距離でいうと200mmどころか400mmくらいはないと大きく写せないくらい、常にビクついているのだ。
 これが常滑から出ると急に距離感が近くなる。常滑に三味線工房がたくさんあるのかと疑うレベルである。むしろ招き猫の生産数で日本最大級というのだから不思議な話だ。

スナップ立国

 常滑市内は他にも大野町周辺や坂井海岸あたりのように、やきもの散歩道から外れたエリアにもたくさんスナップしていて楽しい場所がある。
 スナップといっても撮り方は様々だから一概にはいえないが、私の中でのスナップ被写体に適したものの定義は、写真にした時に面白いものである。だからガリガリも現実世界では興味がないが、写真にした時にそのテクスチャーの面白さが楽しめる素材という意味で気に入っている。

 その観点からすると、いわゆる絶景系の撮影スポットは私が興味を持たないのもあり、特に見聞きしていないが、カメラを持って歩き回ってパチパチ撮るのであればガリガリに限らず被写体が豊富にあり、飽きずに何日でも遊べるポテンシャルを持っているのが常滑市である。これは私が日本全国どころか海外にも時折足を伸ばして撮り倒しているのだから保証できる。

 常滑市で観光誘致をするのであれば、この「撮って楽しい常滑」の側面も大いに推していくべきだと思うし、どこからでも来ようと思えば飛行機に乗ってすぐ遊びに来られる。名古屋駅からは特急が出ており30分、三重県津市からはフェリーが出ている

 一般的な観光誘致と違い、「見る、食う、体験する」に分類されないので誘致する側からしてどこから手を付ければ良いかわかりにくいであろうことが推察されるが、日本全国にカメラ趣味の人間が数十万人はいるらしいから、頑張ってやれば少しは観光収入の足しになるだろう。なにせ東京にいた時にネット上でリサーチした際、そもそもの写真の点数が少ないし質もそう高くはない。

 遊びに来た人が撮り、それが勝手にSNSに流れて人を呼んで来る時代である。まずは撮りやすく情報を揃えるのが得策だろうと思うし、撮らせるための何かを作ってしまっても良いだろうと思う。

 というわけで常滑でのスナップ暮らしが殊の外楽しく、思わず個人的に誘致したくなった次第である。皆さんも撮るものに困ったら是非常滑を訪れてみてほしい。


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