ファンとワナビーと旅行情報(下)


 前回からの続き。

憧れ需要と旅情報

 また旅情報を同じように憧れの軸で探ってみると、親切系の純粋な観光ガイドは「ここに行くとこんなものが見られます、食べられます」で純粋にガイドに徹しているのですが、最近よく見るトラベルなんとかファーとかトラベルなんとかラーみたいな横文字職種の人達については、「見ている人が自分を投影すること」を前提に写真を撮って情報を投げて、をやっている人が多いですね。女子向け旅メディアはほぼこのスタイルです。

 これは旅先に行くことに憧れるのではなく、もっと先にある「そういう珍しい旅行先に自立した私がさっそうと旅行に行き、でも彼氏がくっついてきていてスマホで写真を撮ってくれて、それをSNSで流して後追いの女子に『きゃー憧れます』とか言ってもらいたい」という欲望に向けて投げかけているもののようです。

 どうやって見分けるかというと、属人性の高低じゃないでしょうか。

憧れ需要トラベルインスタグラマー

 SNSチヤホヤワナビーな旅情報を投げている人というのは、トラベルライター、トラベルフォトグラファーをやっています、という肩書でインスタをやっていて、その当事者が写真に写っているのだけれども属人性が低くしてある写真が多い、というのが特徴です。

 属人性はどうやって下げているかというと、「その人であるぞ」と識別可能なパートを減らしてあるのだけど、しかしその人が写真に写り込んでいるという状態。

 よく見ませんか? 髪の長い細身の女性がワンピースで顔をそむけたりうつむけたりして絶景の前に写り込んでいて、「あー彼氏が撮った風ね」という感じの写真。

 写真業界的には「ストックフォトかよ」という写真が個人名義のアカウントで延々と続くのですが、それは明確に「写真を見たあなたを私に代入して、あなたがそこに行く未来を想像して良いのよ」というメッセージとしてやっているわけです。だってバッチリ顔が写っていると「その人の旅行」で確定してしまいますから。

  • 顔ばっちり → その人がその場所へ行った証拠になってしまう
  • 誰もいない → その場所がそうであるというだけ
  • 顔を隠した人物入の写真 → 写真を見た人が誰を代入しても良い

 我々おっさんの発想だと、その人がそこの場所に行った証拠を残さないと! という感じなのでコテコテの記念写真になってしまうのですが、それでは見た人が自分を代入して「私がそこにいて写っていて自分のSNSフォロワーに賛美される」未来を想像することができません。

 女子向けの旅情報を作って流している人たちは、そういう2歩くらい先の欲望を抱えた人たちに向けてきちんと親切にやっているんだなあ、と感心しきりです。あれは自分も同じような欲望を抱えたことがある人でないと、なかなかやれるものではないと思います。

旅情報を扱う商業写真

 正直、リサーチをしてみるまでは旅メディアがこんなにも多様であることは知りませんでしたが、旅情報、トラベルメディアといっても内容は旅の情報を消費する人に向けて発信し、対価を得るサービスであり、その本質は商業写真なんですよね。

 商業写真にも色んなスタイルがあり、消費者のあり方の数だけアプローチの方法がありますから、そういう視点に立つことが出来たのは個人的に大きな収穫でありました。

 逆にいえば、一匹の野良おじさんである私が旅をしてメディア化するのであれば、自分に近いところの欲望を掘り返し、似たような欲望を抱える人達に向けて親切に投げていくのが良いんでしょうね。

 私の場合、欲望が写真を撮ることに集約されてしまっているので、写真を撮る人が見たいものを撮って投げるということになるんでしょうか。具体性ゼロですね。

 一人のおっさんとして、よその国で社会を支えるために働いている似たようなおっさんの姿が見たいので、現状そういう方向性で仕事を組み立てることを考えておりまして、恐らくその方向がベストと思います。

 それではまた。

SNS映えする属人性低めトラベルフォト

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