食わず嫌い


 生まれついての食わず嫌いを自認している。

 言い訳をするのであれば、不用意に目新しいものに手を出さないのは人類が生き残るための叡智である。数多の屍の上に築き上げた知見である。私のような人間は古来から新しもの好きが新種の食べ物を口にするのを物陰からそっと見守って身の安全を図ってきたのだ。

 新しいもの、珍しいものに手が出してみたいと思うのは、慎重さと同様に人類を発展させてきた好奇心によるものだ。食わず嫌いだからといって好奇心がないわけではないのだが、手を出すかどうか逡巡しているうちに話題が次に移ってしまう。

 最近はこれまでずっと限りなく敬遠に近い形で遠ざけてきたオリンパス(OMDS)のカメラに手を出して「こんなに良いとは思わなんだ」と考えを新たにした。これは食わず嫌いだからこそ得られる感動であり、周囲からの「だから言わんこっちゃない」という多少冷たい視線を感じないでもないのだが、少なくとも私にとっては小さな殻を打ち破って新たな世界が広がったようで楽しい。

 立派な中年になってみると、子供の頃は毎日のようにあった自分の殻を打ち破って次のステージに進むイニシエーションが日常の中にほとんどなくなっているのに気づく。

 カネを払えば買えてしまうものにそれを求めるのはまずいような気もするが、脳から危ない物質がドバドバ出てくるお年頃ではないので、こうして手動で刺激を与えるのもハリのある暮らしを営む上で悪くない。一番大切なことを忘れなければ良い、と思う。


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